雨が降り出した
やわらかな優しい春の雨
雨が降るといつも思い出す
実家で飼っていた真っ黒なラブラドール
わたしが家を出るときに、両親へ贈った仔犬
あっという間に大きくなって
小さな母が散歩すると
どちらが連れているのか分からないくらいだった。
今年のもう桜の頃、
彼はお空へ飛んでいってしまった。
彼の使っていたものに
タータンチェックの枕と
真っ赤なレインコートがある
それは真っ黒な彼にとてもよく似合っていて
そのことを知っているかのように
雨の日の散歩が好きだった
年老いて艶が無くなってからも
グレー混じりになった彼に
なんだかしっくり馴染んでいて
雨のさわさわというしっとりとした音と
レインコートの擦れるカサカサという乾いた音と
彼に引き摺られるように歩く母の背中と
さわさわとした雨の音をきくと
決まって
彼の自慢げな顔を思い出す。
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