愛しき手と別れと『西の魔女が死んだ』という小説がある。読んでいないので、詳しいところはわからない。けれども、きっと祖母のことだろうとなんとなく見てとれる。共働きの父母に代わり、私は祖母に育てられた。確かに祖母は、魔女のようで。どうやっても見つからない探し物も、祖母が探すとあっという間に見つけてしまうし、その手から魔法のように、なんでも作ってくれた。祖母の作るもので特に好きだったのは、素朴なパンで。小麦粉とイーストに艶出しの卵液がうっすらと塗られただけのラグビーボールみたいな形をした、薪とダッチオーブンで焼いた素朴なパン。実家を出てからも祖母のパンを食べたくて、帰ることもあったくらいに好きだった。02Jun2023つれづれ日々の音
自己満足と正義と矜持のはざまに正しさとは一体何であろうか。人は人に勝手に期待して、勝手に失望する。世間には常に「世界が自分たちに都合のいいものであってほしい」という大衆の欲望が渦巻いている。誰しもが自分の正義を持っていて、この世で暮らしているように見え。朝の混雑する電車から、人を押しのけてもわれ先にと降りようとしたり(お急ぎなのね…)、団子のように固まって出入口をふさいでいる子どもたち(一瞬たりとも友達と離れたくないのかしらん…)。もはや、あの頑なさは正義だ。そんなこんなで、子どもですら「自分の正義」で生きている。23Apr2023つれづれ日々の音
「キレイゴト」で終わらせないためにわたしたちは、簡単に見失う。したいこと、好きなこと、得意なこと。本当に大切なこと。人は自身の“知っている”範囲で、見たいように見ているし、信じたいように信じている。思考であれ、行動であれ「べき」も「ねば」も、与えられたものだとしても、理由はなんであれ、自分でそれを選択しているのだ。いいも悪いもそういうレッテルをくっつけて、そう見ているにすぎない。13Apr2023POINTS OF YOU®︎つなげる日々の音
ただ、いまここを生きる意味「いま、この瞬間」と友達になると、どこにいようとあなたは「我が家」にいるような、平和な気分でいられます。ーエックハルト・トールようやく“マスク”のある生活に慣れたと思ったら、ちまたは、マスク不要でどうのこうのと。わたしたちは、常に変化を求められ、時代に適応していく必要に迫られ続けています。そんな日々に、自分自身のことは後回しにしがち。イライラやプレッシャーで浮き足立ち、やらなくてはならないタスクが多すぎて頭がパンパンに膨らみ、心がざわざわしたり。心にダメージを負って立ち直れない…と感じたり、ポジティブな励ましに笑顔を返せないくらい落ち込んだり。自分の心の状態に自分自身が気がつかないことすら、あるのです。起きている事、その要因が自分で...15Feb2023POINTS OF YOU®︎つなげる日々の音
本の世界は危険で、この世界をわたしは愛している乗り物に乗って、本を読んでいると永遠に目的地に着かなければいいのに。と思う。電車でもバスでも飛行機でも船でも。本を開くとそんな気になるので、ほんとうに危険だ。気がつけば、終点の駅で誰もいなくなった車内に取り残されていたり、滑走路に降りるどすん、という衝撃に驚いたり、到着を知らせる汽笛に慌てて荷物を片付けるはめになる。なので、降りてからの時間が決まっているとき、通勤電車とか、待ち合わせとか、歯医者の予約とか、は、本を読まないようにしている。(とは言え、電子書籍だとこうはならない。きっちりと、向こうの世界とこちらの世界は分けられていて、いつだって“現実”が手の中にある。)単行本より、文庫本の方が、より顕著に危険だ。本の重さを感じないので...08Feb2023たわむれ日々の音
引き継がれる価値だけ残されていく変わること、変わらないこと。気がつけば、立春も過ぎ新しい年も二月を迎えた。少し前まで、普段は行かれない長旅に出ていたのだけれど、ここ数年は実家で年越しをしている。田舎の年越しの準備をして、父とたわいもない会話をし、母と三度の食事の用意をするのも、ようやくこの歳になって好ましく思う。「変わること、変わらないこと」は、実家の炬燵の上に置いてあった冊子の1月のテーマで、父が寄稿した文章も載っていた。元編集者の父の書く文章は、子どもの頃から見慣れたものだけれど、彼がどう考え、どう生きているのか、を多少伺い知ることができる。(ついでに言うと父の字も書いたものも、好きだ)05Feb2023つれづれ日々の音
クリスマスは、立ち止まり、自分の周りにある大切なものについてじっくり考える機会をくれる。Christmas gives us the opportunity to pause and reflect on the important things around us – a time when we can look back on the year that has passed and prepare for the year ahead.-David Cameronクリスマスは、立ち止まり、自分の周りにある大切なものについてじっくり考える機会をくれる。それは、過ぎ去った1年を振り返り、翌年の備えをするための時。−デーヴィッド・キャメロン25Dec2022つれづれ日々の音
沈黙の力 −ペルーリトリートに寄せて−In this universe, the moon,the sun,each and every star,my own life, your life, they are all a single polka dot among billions.ーYayoi Kusamaこの宇宙では、月も太陽も、一つひとつの星も、私自身の命も、あなたの命も、すべて何十億分の一の水玉なのです。ー草間彌生20Dec2022POINTS OF YOU®︎つなげる日々の音
いつの日か記憶から抜け落ちようともよく言って一般的な、いやあまりよくない方であろうわたしの「記憶する」という能力では、この旅の記憶もたとえ覚えていたいと願っていても端から次々とどこかへいってしまう。ともすれば、いまほどまでに見ていた時計の時間すらあいまいで、いまは今日は何日で何曜日なのかもわからない。まだ日常の中にいて、「約束」(仕事とか誰かに会うとか)があれば、そこにとどまることができるのだけれども、旅に出てしまうと飛行機とかに乗らないかぎり、カレンダーは意味をなさなくなる。けれども、身体の隅々に沁み込んだ印象は、こぼれ落ちた記憶とは裏腹に、日常に帰ったとき、ふと顔を覗かせる。朝、歯磨き粉を歯ブラシに出しているときに。昼、午睡から目覚めまどろんでいるときに。夜、手...16Dec2022つれづれ日々の音
旅に出るのはなにゆえか。旅に出るのはなにゆえか。一歩一歩、足の裏の感覚を感じながら歩く。ひとつひとつ、放ちながら歩く。刻々と刻む時間はいつしか忘れ去られ、いまここにあるものにのみ存在する。ひとつひとつ。こうしてみると、世界は知らないことばかりで。空の色がこんなにおしゃべりだなんてわたしは忘れていた。少しのあいだ、目を閉じているうちにあんなにも青く明るかった空に月が浮かび、ピンク色に染まりはじめ、気がついた頃には、星が瞬きはじめる。そこらを飛び跳ねているのは、ハミングバードなんてかわいい名前のついた、紛れもなくハチドリで。力強い羽音はまさに蜂そのもの。これでもかっていうくらいに、羽根を震わせて花から花へとその嘴を寄せる。わたしは物語の中と外をいったりきたり。...16Dec2022つれづれ日々の音
旅に出たい、ここではないどこかへ。南米ペルーの旅に寄せて旅に出たい、ここではないどこかへ。人は何のために旅に出るのか?旅の魅力が日常から離れることだとすると、たとえいっときであれ、一切を失った自身に残されているのは、自分自身と鞄の中身のみで。旅では、記憶や知識や体力や社交性といった目に見えないものを含めた、手持ちのものだけがその人を支えてくれる。誰しもが経験あるだろう(と思われる)、ふいに自分がどこにも属していないように感じられ、寄る辺がなく子供じみた感情におそわれほんの少し感傷的になる。それでも、丸裸のわたし自身にただ付き合う。そのことが、わたしには好ましく必要で。それを確かめるために、わたしは旅に出るのかもしれない。14Dec2022つれづれ日々の音