翻訳できない言葉たち


こうして文章のようなものを時折り書いてはいるけれど、

本当に“分かりやすい”言葉を綴ることが苦手で。



“正しく”意図した通りに伝えられる文章が書けた方がもちろんいいのだろうけれど…


分かりやすい言葉、て、ほぼその通りに他の言語に翻訳できる言葉、なのではないのか?

と思う。



先日、とても素敵な本をおしえてもらって
迷いなくポチッとした。

翻訳できない世界のことば 
エラ・フランシス・サンダース

他の国の言語にしようとしたとき、
単語では適当なものが見当たらない言葉たちで彩られた本書。


その場所の独特の文化や空気を纏って、
当たり前のように生活のなかにある言葉たち。


Poronkusema/ポロンクセマ/フィンランド語
「トナカイが休憩なしで、疲れず移動できる距離」。距離を言い表すにしては、かなり適当ではっきりしないかもしれません。でも、トナカイのいる地方では、とても便利な言い回し。
Poronkusemaは、約7.5kmです。(本書より)


『家から会社までは“Poronkusema”くらいだよ。』
『ほう!じゃあちょうどいいくらいだね!』
などと使われるのだろうか?


それとも、
『なんと!それは大変だ!』
と、なるのだろうか?


「トナカイが休憩なしで、疲れず移動できる距離」


その言葉を使い合う間には、
言葉にしなくてもわかりあえるものがあるのでしょう。


約7.5kmと言う、具体的な数字ではなくて。
わたしの生活にはトナカイさんはいないので、
想像するだけで楽しい。


ところで、“分かりやすい言葉”には、
パワーがある。


力強く印象的で、明瞭だ。
あえての余白のなさというか。
その意図以外には感じようがないというのか。


その一方で、
わたしは強烈なパワーのある言葉よりも、
本書のような翻訳できない言葉や、
他の言語に翻訳しにくい文章が纏う空気が好みだ。


なんというか、独特の音や匂いのある言葉たちが好きなのだ。


全体に引力があってなんだか惹きつけられるのに、
その中のひとつをポッと抜き出すと、

その引力は解かれ、どう惹きつけられたのかわからないような。



それでも読む人がその時々に感じ方が変わるような、余白で泳げるような文章が好きだ。


たぶん、わたしはわたしの意図した通りに伝えたい、

ということを放棄しているのでしょう。

けれど、読んでくれる人が感じてくれるものを信じている。


さて、お気に入りになった
『翻訳できない世界のことば 』から、
もうひとつだけ。


Mangata /モーンガータ/スウェーデン語
「水面にうつった道のように見える月明かり」。


想像してみて。


今夜のような漆黒の夜にさらさらと流れる明かりを。
誰かに『お月さまが綺麗ですよ』と伝えたくなるような気持ちを。

日々の音

大人のための絵のない絵本。 日常と非日常のはざまにあるふとした瞬間を音にする。 心を奏でていくと、世界はこんなにも美しくやさしい。 大人のあなたへ、ココロにまばたきをお届けします。

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