余韻からはじまるもの
①鐘などを鳴らしたとき,音の消えたあとまで残るひびき。余音。 「 -が残る」
②事が終わったあとに残る風情。 「 -を味わう」 「 -にひたる」
③詩文などで言外に感じさせる趣や情緒。余情。 「 -をもたせた表現」ー三省堂 大辞林ー
世の中の時間の流れは、どんどんと早くなっていく。
右へ左へ、上から下へ、内から外へ、
ありとあらゆる情報に
溺れるくらいだ。
出来事が次から次へと流れていく中にあって、
余韻を食べることは幸せなことだ。
大切な人と向き合いながら、ゆっくりと時間をかけて、丁寧に作られた空間ごと、食べる。
グラスを静かに合わせた、カチャリ。
この人とこれから何度、こんな時間を持てるのだろうか。
街で見かける、チョコレート色のカブリオレに、
もう会えなくなった人の横顔を思い出す。
独特の乾いたエンジン音の唸り声。
相変わらず、車と猫と戯れているのだろうか。
雨に濡れる紫陽花を見て、長谷寺に行ったことを思い出す。
對僊閣の玉子焼きとタイル貼りの洗面台。
ゆるりとした朝早い参道の静けさと、次第に増幅していく話し声。
余韻は、過去現在未来という流れを見事に奪う。
時にモノクロに、時に鮮やかに。
遥かにあるはずの記憶を連れてくる。
水滴のような感情の断片に。
あっという間に、甘やかに
そしてほんの少しの感傷を伴って。
降り出しはじめの雨粒のように、
ぼんやりと次第に、くっきりとしてくる。
どんな哀しい出来事も
気づかないほどのやきもちも
余韻というフィルターを通すと
幸福の温度が少し上がる。
余韻には記憶と感情を濾過する機能があるようだ。
0コメント