忘れられないうしろ姿がある。
もう、20年くらい前、
家を出ようと決めた。
反対されることは分かっていたので、
勝手に部屋を決めて報告した。
案の定、父は大反対をして、
引っ越す前の週まで、
あーだこーだ、言っていたのだが。
何をどう吹っ切ったのか、
「引越しは、父さんがやるから」と。
家から持ち出すものは、そんなに無くて、
なんとかなるだろうと思っていたのだが、
友人からもらった小さな洗濯機があった。
引越し先の古い二階建てのアパートは、
無論エレベーターなど無く、
父は背中に洗濯機を背負って、
階段を上がり、
キッキンとお風呂場の間に置いてくれた。
誰の手も借りず、ひとりで。
父と母が帰り、
片付いていない部屋のタイル貼りのキッチンにひとり立って、珈琲を淹れようと、
鍋の中のぼこりぼこりと泡立つお湯を見ていたら、
なぜだか、わあわあと声を上げて泣いた。
あれから、何度か引越しをしたけれど、
わたしの部屋に父が来たのは、
最初の古い二階建てのアパートしか、ない。
その理由を未だに聞いたこともない。
いまではずいぶんと小さくなった父の背中を見ると、あの日のことを思い出して、わたしは、
涙腺が緩むのを悪態をついてごまかすのだ。
4コメント
2018.09.22 11:06
2018.09.21 11:07
2018.09.20 11:15