まぼろしをば越えむと思ひけむ――共感というもの、かくも人を惑わす。映画やドラマは、目と耳をたやすく操り、思うままに感情を揺らしてくる。切ない調べに、美しき映像が重なれば、人はたちまち「切ない」「感動的」と思い込んでしまう。けれども、それはすべて仕組まれた枠の中。その導きに身を委ねるばかりでは、独自の感想も、深い洞察も生まれようはずがない。世にあふれる感想といえば「泣いた」「感動した」の類ばかり。同じように感じなければならぬという圧が、いつの間にか人を縛っている。そうして、自分の感情を自分のものとして持つ力は、いつしか脆くなってしまうのだ。――温室の花々ほど、不思議なものはない。温室の中は常に穏やかで、雨に打たれることもなく、花はただ咲き続けている。だが、それは...28Aug2025つれづれ日々の音