I shut my eyes in order to see.
- Paul Gauguin -
私は観るために目をつぶります
『Dine in the Dark Bangkok』
Switch off the light , Switch on your senses.
先日、こちらでお食事をしてきました。
携帯電話、カメラなど、光を放つものは持ち込めないので写真は上記サイトからお借りしてます。
アテンドしてくれる方(視覚の不自由な方)の声に助けられながら、
フルコースをいただきました。
メニューは、
●西洋料理
●アジア料理
●ベジタリアン料理
●サプライズ料理
から選択します。
いただいたのは、もちろん、サプライズ料理。
わたしは食べることが大好きなのと、元カフェのシェフだったり元パティシエだったりするので、「食べる」ということに並々ならぬ思いがあります。
父が脱サラをして、無農薬野菜を作りながら後進育成に勤しんでいることもあり、「食べる」こと、「生産者の思い」などには、子供の頃から割と豊かに経験を積んできたとも思っていました。
なので、今回もとても楽しみにしてはいたのですが…
そんなに大きなインパクトをもらえるとは思っていなかったのです。
ところが…
食べ終わってレストランを出る頃には、
わたしはすっかり疲れ果てていました。
真っ暗闇の中で食事をするということが、
こんなにも大変だったとは…
空間に慣れたら、少しは見えるんじゃないかしらん?なんて予想を裏切り、最初から最後まで、
まーーーーっくら。
不思議だったのは、真っ暗で目を開いていようが閉じていようが、視界は変わらないのに、
「これは何だろう?」と、自分の味覚や嗅覚の記憶を辿る時には、目を閉じてしまうのです。
今から口に入れようとしている物が、
いったいなんなのか、
色や形や、どんな器に入っているのか、
ナイフで切らないと食べられない大きさなのか、
そもそもナイフとフォークでどこを押さえて、どこを切るのか、汁気のあるものなのか、
ソースがお皿のどこにあるのか、
まったく分からないのです。
それはそれは不思議な体験でした。
少し想像してみてください。
人の五感でも特に優先して使われていると言われる視覚。
それを閉ざした状態で、食事をする。
そのため、視覚以外の感覚の記憶を総動員して、
ひたすら食べるのです。
なんの香りだろう?どこかで嗅いだスパイス。
カチャリとお皿とナイフが鳴るので
“あ、切れたのね”と、わかる。
網目の太いバスケットの中にいくつかお皿がある、と触って知り、テーブルの上に手を這わせ、
ここにグラス、ここにナイフ、ここにフォーク、
そもそも、テーブルの奥行きはどれくらい?と手を伸ばす。
いつか食べた◯◯の味に似ている。
こっちは、懐かしいあの△△の味に近い。
この歯ごたえは××じゃない??
自分の視覚以外の五感の記憶をすべて手繰り寄せ、
見えてない映像を、閉じたまぶたの裏に写し始める。
目の前の食事がいったい何か?を記録していくことと、自分の記憶を辿っていくこと。
2時間近くものすごーく集中して食べる。
そんな時間を過ごして、
食事を終えてレストランを出る頃には、
ホテルのエントランスのベンチに腰かけて、しばらくぼーっっとしてしまいました。
この体験がわたしにもたらしたもの。
それは、わたしの過去の記憶との繋がりでした。
普段しない、使っていない感覚を使う。
日頃、どれだけ視覚のみでものごとを見ているのか。
いや、見ているつもりで見ていなかったのか。
この瞬間に視覚以外の感覚を使って食事をすることで、過去の五感が、曖昧に覚えていたもの、
まったく忘れていたり記録違いになっていた記憶。
体験から数日を経て、
そんなものが、くっきりしてきました。
食べることを遥かに越えて、
いまのわたしは、過去のわたしが創っていて、
未来のわたしはいまのわたしが創っていくのだと。
I shut my eyes in order to see.
- Paul Gauguin -私は観るために目をつぶります
2コメント
2018.10.04 22:58
2018.10.04 11:29